狩人とサロン

イタリアの花の都フィレンツェは、ルネッサンスの発祥の地として有名です。

私も一度だけ訪れたことがありますが、街の至る所にこの地をおよそ200年間支配したメディチ家の痕跡がたくさん残っています。

1397年にメディチ銀行を創設したメディチ家はローマ教皇庁の財務管理者となり、その後めざましい発展をとげたことで知られています。

『豪華王』の称号を持つロレンツォ・デ・メディチ(Lorenzo de’ Medici, 1449年1月1日 – 1492年4月8日)の時代には、フィレンツェ・ルネサンスの最盛期を築きます。

メディチ家はパトロンとして、多くの学者や芸術家、思想家を支援したことでも有名です。

メディチ家のヴィラ(別荘)で開かれるサロンには、様々な分野の芸術家や思想家が集まり、議論を交わし、ルネッサンスの人文主義を育んでいったとされています。

そんなメディチ家の興亡については塩野七生さんの著作がとても有名ですが、今回はその話ではありません。

私たちも『サロン』を開こうよ!という提案です。

いや、もちろん別荘を借りるわけでもなく、今流行り(?)のオンライン・サロンを運営しようというのでもありません。

何ら物理的な空間も、潤沢な資金も必要としません。

自分ひとりの脳内で完結する、『脳内サロン』です。

実は、この『脳内サロン』なるもの、もうすでにその一部をこのブログでご覧に入れております。

ブログの各記事のタイトルは、『〇〇〇と△△△』という形式でほぼ統一されていますよね?

この記事たちこそ、私の脳内で開催した妄想サロンをアウトプットした表現物のごく一部なのです。

そして、今日お勧めするのは「あなも脳内サロンを開いて、ブログやツイッターでアウトプットしよう」という提案なのです。

話をメディチ家に戻します。

異なる文化や分野が交差する場では、既存の概念を新しく組み合わせて、非凡なアイデアを数多く生み出すことができます。

革新的なアイデアは、異なるものが交差する場所、すなわち「交差点」で生まれるものです。

15世紀イタリアのフィレンツェで、幅広い分野の文化人や芸術家の手によって創造性が開花するのをパトロンとして助けたメディチ家は、その『交差点』を別荘で作り上げました。

私たちにそんな真似はできません。できませんが、唯一『脳内』なら可能です。

『メディチ・インパクト』や『アイデアは交差点で生まれる』の著者フランス・ヨハンソンは、メディチ家の別荘で繰り広げられた“交差点”による効果を「メディチ・エフェクト」と名付けました。

アイデアは交差点から生まれる イノベーションを量産する「メディチ・エフェクト」の起こし方 (CCCメディアハウス)

ヨハンソンによれば、「メディチ・エフェクト」は誰でも起こすことができるというのです。

メディチ家の別荘がなくとも、それと同じような場所がもうひとつあります。

それが私たちの頭の中です。

そこでは、異なる文化や領域、学問などを何ら制約なく、互いの概念をぶつけあったり、融合させたりして、斬新なアイデアを生み出すことが可能です。

ヨハンソンは、それを『交差点』と呼んだのですね。

どんな個人であれ、組織であれ、異なる専門分野や文化が出会う交差点。ひとたびそこに踏み込んだ者は、いっけん何の関係もなさそうな異分野同士を関連づけることに意識を傾けるようになります。

おそらくそれは、イタリア・ルネッサンス期フィレンツェの大富豪かつ実質君主の別荘内で異分野同士を競わせ、交じらわせていた、あのサロンで行われていたことと実質的に変わりはありません。

なので、『脳内サロン』です。

では、その『脳内サロン』なるものをどのように開催し、運営したら良いのか?

手がかりは、『メディチ・インパクト』及び『アイデアは交差点で生まれる』の中にあります。

メディチ・インパクト (Harvard business school press)

まず、アイデアには二種類あるとヨハンソンは説きます。

ひとつは、ある分野の中だけで発展する「方向的アイデア」です。

もうひとつは、異なる分野を交差させて生まれる「交差的アイデア」です。

方向的イノベーションは、個人や企業が既存のプロセスを合理化して効率化を図るようなものです、

その目的は既存のアイデアに改良や調整を加えて発展させることにあります。

勿論、こうした方向的イノベーションは欠かせないものです。

一方、交差的イノベーションは、驚きや意外性に満ちており、これまでにない新しい方向への飛躍を伴います。

まったく新しいことを生み出すためには交差的アイデアが必要です。

しかし、それを発展させ、実用可能なものにするには、方向的アイデアも必要不可欠なものとして、両方をうまく使いこなそうというのがヨハンソンの提唱するところとなっています。

実は、ヨハンソンよりもずっと前に、これと同じ主張をもっとシンプルに唱えた人がいます。

広告界の巨人J.W.ヤング(1886年~1973年)その人です。

ヤングの代表的著作『アイデアのつくり方』に特殊資料と一般資料の話が出てきます。

アイデアのつくり方 (CCCメディアハウス)

特殊資料というのは、専門分野の資料(知識やスキルに関するあらゆる情報)のことです。

一般資料は、専門領域以外のあらゆる資料、情報のことです。

ヤングは、特殊資料と一般資料の『交差点』にこそアイデアの芽が生れるというこを喝破しました。

『アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない』(『アイデアのつくり方』より)

この至言は、「アイデアは無から生まれるものではない」という常識を正に『常識化』することに成功したといっても良いと思います。

「既存の要素」とは、脳内に蓄積されている“あれや”“これや”のことです。

つまり、脳内のあれやこれやの交差点からでしか、アイデアは生まれようがないというとです。

さらに、「新しい組み合わせ」は、遠くかけ離れた異分野同士ほどよく馴染みます。

あまりに近い距離で隣接し合うもの同士の組み合わせは他の誰かが既に見つけているもので、そこから新奇性のある組み合わせを探り当てるには困難が伴うからです。

なので、特殊資料×一般資料の交差点を探ることが、もっとも簡単に新奇性のあるアイデアを狩れるというわけです。

そう、私たちは交差点を狩るハンターなのです。

交差点をハンティングするのに、メディチ家のように大きな別荘を建てたり借りたりする必要ありません。

いつだってサロンは、完全無料で『脳内』で開催し運営することが可能です。

なんという贅沢な話でしょうか?ヤングやヨハンソンに感謝です。

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