カブトムシとニッチ戦略

弱肉強食の自然界は、ビジネスを考える上で生きた教材です。

同じ種類の生物にも、強い者もいれば、弱い者もいます。もちろん、中途半端なものも。

このようなシビアな競争環境の中で、圧倒的な強さを誇る者はともかく、現実的に生き残っていける者とはどんな種類なのでしょうか?

それは、『ずらし戦略』が身についている者たちです。

「ずらす」ことは同種生物が競争する上で、とても有力な戦略となります。

たとえば、カブトムシの世界では「角」が大きい方が圧倒的に戦いに有利です。

強くなければエサもメスも手に入れることはできず、死に至ります。

角の大きさが競争のスタンダードとなっているカブトムシの世界では、半端な大きさの角をもつ者ですら、より大きな角をもつ者につい挑んでしまいます。

もちろん、勝つことができるのは大きな角のカブトムシです。

こうして、半端な大きさの角をもつカブトムシは子孫を残すことなく死んでいきます。

オスのカブトムシは、いつだって明け方近くに活動します。

大きな角をもつ者も、中途半端な角をもつものも例外はありません。

ところが、唯一、より貧相な『小さな角』をもつカブトムシだけは、真夜中から活動を始めるのです。

他の強いオスたちがまだ眠りこけているうちに、エサもメスも同時に手に入れてしまうのです。

これこそが、小さな角をもつカブト虫の『ずらし戦略』です。

当然ながら、小さな角のオスはしっかりと子孫を残します。

もし、あなたが圧倒的に大きな角をもっているのだとしたら、私には何も言えることはありません。

ですが、中途半端な角しか持っていないのだとしたら、大きな角とは戦う土俵をずらしましょうよ!だけは言えます。

なぜなら、私自身が半端な角しかないので、いや小さな角だという自覚があるからこそ、誰とも戦わない時間や空間にずらすことに集中してきたからです。

小さな角のカブト虫の戦略は、明らかに時をずらした『ナンバーワン戦略』です。

生物の世界の法則では、オンリーワンではダメで、ナンバーワンしか生きられないのです。

真夜中に限って、小さなカブト虫はただそれだけでナンバーワンになれます。

これが、ビジネスの世界でいう「ニッチ戦略」というものです。

ニッチ戦略ほど誤解の多いビジネス用語もなかなかありません。

一般的には、「すきま市場を狙う」という意味で解釈されていますが、もともとは生物学用語から転用された言葉です。

本当の意味は、「ある生物種が生息する範囲の環境」のことを指しています。

つまり、ニッチとはナンバーワンになれる時間や場所のことです。

猛禽(もうきん)類を避け、夜行性を選んだ小動物たちはニッチ戦略を展開しています。

ゾウリムシは種類によってどの水位に生息するかで棲み分けています。

オンリーワンではなく、ナンバーワンしか生き残れないからそうしているのです。

では、ナンバーワンとオンリーワンとの明確な違いは何か?

それは、オンリーワンが他者からの感覚的な評価に過ぎないのに対し、(生物たちが示してくれているように)「ナンバーワン」は自分自身が主体的に狙って獲ることができる戦略だという点です。

こんなふうに考えると、ナンバーワンになれるチャンスは無数にあります。

ただし、ナンバーワンになるための条件は「誰にも負けない」ということではありません。

他の誰にもできない時間や場所を見つけ出して占拠することです。

「場所」だけでなく、『時間』も強調しておく必要があります。

なぜなら、本来のニッチ戦略とは、場所だけに限定した話ではないからです。

そのこともまた、カブトムシなどの生物は教えてくれています。

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